――なぁ、何で何も言わないんだよ?

 

 

ひらひらと、舞い散る桜は未だ無くて、
俺は数歩前を行く彼奴の背中を、唯、見つめた。

 

卒業式なんて、まるでいつもの朝礼のように、体育館に向かう廊下(ミチ)はこれが最後なんてとても思えなくて、
いつものように騒がしく雑談をしながら歩いては、教師(センセー)に叱られて、笑って、また喋って。
成績優秀なクラスの委員長で、詰め襟も滅多に着崩したとこ見たことなくて――俺との思い出は、たった1つしかないけど。
なぁ、優しいお前が、「東京に行く。」だなんて嘘だろう?
温和で、誰にも媚びず、皆に慕われてて、その中でも俺にだけ向けられていた笑顔。
他の奴から、さも当たり前のようにお前は「東京に進学する。」だなんて、
そりゃお前は進学組の中でもトップで、就職組の俺とは全然違うことぐらい解っているけど、
それでも、桜吹雪、白い嵐の中で誓った言葉は、ひたすら信じていたんだ。

 

静まり返った体育館。
いつもとは違うんだってことが、既に泣きかけの下級生や、何時も冗談ばかり言ってた教師の緊張した顔から判る。
総代で、彼奴の名前が呼ばれて、舞台上に出易いようにと遠く離れた席に、嗚呼、矢っ張り最後の日も彼奴との距離はこんなに有るんだなって思った。

 

接点なんて、殆ど無かった。
同じクラスだったって事くらい。
連む奴等も違えば、とってる科目も違って、席だって隣になったことはなかった。
考えれば考える程、俺とお前は離れてて、唯、交わした視線だけ。
お前が、ふと俺を見る視線が余りに優しいから、互いの友人達と連みながら俺に向けてくれた笑顔が余りに眩しかったから、俺は思わず勘違いをしてしまったんだ。
そう、屹度、勘違い。
言葉を交わすこともなく、それでもお前の向ける笑顔を糧に俺の中で育んだ想いは、決して消えることなく膨らんでしまった。

 

 

一年前。 放課後。 桜並木。
偶然帰り道が同じになった俺達を襲った、小さな春の嵐。
昇降口で偶々一緒になって、自然二人で足を向けた並木道には満開の桜。
特に何を話すでもなく、ぼんやりと花を眺めながら歩く俺達に、悪戯な風が見せた景色。

 

舞い散る桜。
白い嵐。
1m先も見えぬ程に。

 

お前は突然俺の手を引いて抱きしめて、それからこう言ったんだ。

「お前とずっとこうしていられたらいいな。」

あれは、決定打だ。
あの言葉があるから、俺は、もう忘れられない。

 

 

式は厳かに終わり、今は校庭で撮影大会。
卒業証書の入った黒い筒を持って、馬鹿なポーズをとる。
これが最後だって、皆解っているから。
就職組は世間の荒波に揉まれ、進学組だってこれまで通りには行かない。
最後の日。
俺は1人、教室に居る。

 

これが最後だと解っているからこそ、彼奴が居た教室を離れられなかった。
何度か仲間が呼びに来ても、それはどうしても去れない程に。
ガタリと鳴る教室のドア。
見回りの教師か、呼びに来た友人か。
変わらず窓の外を眺めていたら、不意に腕を引かれた。
あの時と同じ温もりが、俺の身体を包む。

 

長い腕。
黒い髪。
懐かしい、お前の匂い。

 

「ずっと、こうしたかった。」

 

お前はきつく、抱きしめて。
そんなこと言われたら、言いたかった言葉も全部、飲み込んでしまうだろう?

「嘘つき。」

「嘘じゃない。」

「――だって… 行ってしまうんだろ?」

嬉しくて、悲しくて、泣きそうだ。
お前がこんなに傍にいるのに、これが最後だなんて。
お前は俺の身体を一寸離して、俺の顔を覗き込んだ。

「行くんだろ?」

一体どんな顔を顔をしているのか、自信無い。
唇を噛み締めて、精一杯耐えて、屹度、凄い顔をして居るんだろう。

「直ぐ戻ってくるよ。」

いつもの、あの、俺にだけ見せる優しい笑みを浮かべて、
だから俺は、手に持っていた卒業証書の黒筒を振り上げずにはいられなくて。

「忘れるだろ。」

「忘れないよ。」

「忘れるよ。」

俺達は殆ど言葉を交わすことなく、唯、同じ空間に居ただけで。
桜吹雪、白い嵐の中で誓った言葉。
たった1つの思い出は、余りにも儚くて。
振り上げた左手はお前の右手に捉えられた。

「……忘れられるわけ、ないだろ。」

 

眼の前に落ちた黒髪。
お前とのキス。

初めての温もりは、少し荒々しくて、
お前の、意外な一面を見た気がした。

 

桜並木、蕾は未だ固く、右手に温もり。
「直ぐに戻ってくるよ。戻る為に行くんだ。お前とずっとこうしていたいから。」

 

 

4年後。桜並木。ひらひらと、舞い散る桜。 ――俺達は、二人、並んで歩く

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------- may様より ---------------------------------

 

 

 

 

ぎ ゃ あ !
こんな素敵なお話を頂いてしまいました!
mayさん、ほんとにありがとうございました!!
何よりも、私が勝手に考えていた裏設定と
かなりの部分が見事に一致していることがすごすぎます・・・
頑張って、この素敵なお話を台無しにしないよう、続きの漫画を描こうと検討中・・・
しかし、ほんとに私絵描いててよかったなぁ・・・・!!
20060318 オリ

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